家族考。
日本には、100年以上続く老舗企業が数多く存在します。
「帝国データバンクの『長寿企業の実態調査(2019)』によると、その数は3万3,250社以上。さらに小規模な企業を含めると5万社にのぼるという推計があります。
世界で最も古い企業は、西暦578年に創立された日本の『金剛組』という寺社建設の会社で、実に1447年存続している企業です。日本最古の歴史書とされている古事記が編纂(へんさん)された年(712年)よりも130年以上前に創業した超長寿企業です。
「興味深いのは、そうした長寿企業の多くが、家族経営であることです」と、立命館大学 講師 竇氏は語ります。
「長子相続が一般的な日本とは異なり、中国ではすべての子どもに財産を平等に分配する諸子均分制の慣行があります。これが骨肉の争いを生み、家族企業の存続を危うくする原因になっています」と分析し、「企業経営、家族経営、財産経営をいずれも盤石にしている企業が、長く存続しています」と語ります。
その一つに、京都で300年続く薫香メーカー・株式会社松栄堂について以下の記述があります。
『同社が、企業経営においてこれまで果敢にイノベーションを行ってきたことです』と氏は長寿の理由を分析します。
香の製造という一見革新とは縁遠く感じられる伝統的な事業を営む同社ですが、時代の変遷の中で多くのイノベーションを起こしてきたといいます。第二次世界大戦後、危機的状況の中で、販売ルートや原材料の仕入れルートの開拓を行ったこと。また桐箱からプラスチック製、さらに環境に優しい牛乳パックの再生紙を使った箱へとパッケージを進化させたのも同社にとって大きな革新でした。
一方で、「細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中へ」という創業家に伝わる家族精神を、経営に反映させているところにも竇氏は注目します。同社は巨大な市場を持つ中国へは進出せず、市場規模は小さいが松栄堂の線香を求めるユーザーがいる欧米に、あえて販路を開きました。家族経営の根幹ともいうべき『家族精神』を徹底して守り抜くところに、300年もの長きにわたって存続してきた理由を見ます。
ささいな揺らぎは 気流に敏感に反応し 揺らめき 予想のしないところへと 流れゆく

(スタッフ M)
文・画像引用元 : 立命館大学 研究活動報『RADIANT』